創作ラノベ 『エリア88-2022 キーウの幽霊編』 -1
#1章
2022年5月 マリウポリ陥落時のキーウ
国防大臣オレクシー・レズニコフは、お忍びで市内の老舗レストラン「海猫亭」にいた。
「お待たせしてすみません。ちょっとペンタゴンと一悶着ありましてね」
レズニコフは和やかな口調で同席の老人に話しかける。車椅子に乗った80歳くらいの老人はパイプの煙を燻らせながら微笑んだ。
「気にしなさんな。米軍さんにはいろいろ建前がいる。金持ちのための建前がね。建前の前では貧乏人の命なんざレシートみたいなもんさね」
「おっしゃるとおり」
レズニコフは老人のグラスに赤ワインを注ぎながらため息をついた。
「それであんた達、貧乏人は金持ちからの援助が必要ってわけだ」
「ロジャー・クレメンスのようなド直球ですな、ご老人」
レズニコフは肩をすくめて窓から見える通りに目を向ける。午後2時。快晴。通りを行き交う人々。ごくごく普通のキーウだ。崩れたビルや積み上げられた土嚢を除いては。
続く
創作ラノベ 『エリア88-2022 キーウの幽霊編』 -1
「お若いあんたは知らないかもしれないが、昔はそっちの業界ではこう言われたもんさ。」
老人の目が鋭く、ずる賢く、狐のようになめ回す視線を一国の国防大臣に向ける。
「"貧乏人が戦争したいならマッコイに頼みな"ってね」
老人は手にした杖でレズニコフを差しながら言った。
「あんた達の博打に乗ったよ。カネさえ出してくれるんならクレムリンでも持って来てやる」
パイプを置いて老人はウィンクして付け加えた。
「サービスでクレムリンの主の首もつけてやろう」
- プロローグ終わり